佐藤さんちのふしぎ

童話作家・佐藤さとる と作品たち

『だれも知らない小さな国』紹介

 「二十年近い前のことだから、もうむかしといっていいかもしれない。僕はまだ小学校の三年生だった。その年の夏休みには、町の子どもたちのあいだで・・・・」

 この書き出しはもうぼくの頭のなかに住み着いていて、隅の方からときどき起きだして来ては、ぼくにじぶんの子どものころの夏休みの記憶を思い出させます。
 真っ青な空にもりあがる入道雲、まぶしい日差しと世界中を満たすようなセミの鳴き声、目の前に広がっている無限の(ように思えた)遊び時間。
 郷愁、って言うんですよね、この切ないような感覚を。佐藤さん自身、ここからしばらくの物語は郷愁の心に導かれて綴っているように見えます。

 町の子どもたちのあいだではやったとりもちづくり。「ぼく」はもちの木を探して町の背後の山を探検し、思いがけず崖と杉林と小山に囲まれた奇妙な三角の平地に出てしまう。もちの木も見つかったけれども、それよりも「ぼく」はこの小山が気に入ってしまった。
 夏休みのあいだもそれからも何度も小山にでかけた「ぼく」は、三角平地のいずみの岸で「トマトのおばあさん」から不思議な小人、こぼしさまの言い伝えを教えられた。

 それからふたつの出会いがあったあと、よその町に引っ越すことになった「ぼく」は、小山からはなれ、やがて小山を思い出すこともなくなった。
 戦争が始まり、父の死、姉の死、そして終戦がやってくる。

 多くの町が焼け野原になったあとの日々に、「ぼく」は小山を再訪した。その後「ぼく」の視界のすみをかすめるようになった、コオロギのような小さな黒いかげ。そしてぼくはアイヌの伝説でコロボックルの存在を知る。
 「ぼく」の探求が始まります。

 現代の日本で元気に暮らしている小人の一族と、その「味方」に選ばれた「ぼく」、せいたかさん。道路開発のために一族の住む小山がつぶされそうになる危機を、もうひとりの「味方」と一緒に乗り越えて、第一巻は次の物語に続きます。

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