佐藤さんちのふしぎ

童話作家・佐藤さとる と作品たち

『ジュンと秘密の友だち』紹介

 小学校三年生のジュンの家は、駅からかなりな坂道を上がる丘のなかほどにあります。家には丘の下をのぞき込むような庭があって、そこからもう一段下ったところにも小庭――小さな平地があります。
 ある日ジュンは、この小庭に洞穴を掘ろうと思い立ちます。昔ここには防空壕が作ってあって、まだ子どもだったお父さんやノブ叔父さんは、そこで勉強したり本を読んだと聞いていたからです。だって、家の中では自分の部屋もないし、自分の机が置いてあるのは縁側のすみっこだし、自分の洞穴があったらいいじゃないですか!
 戦争が終わって埋め戻されたその洞穴を、ジュンはひとりで掘ってみようと言うのです。でも、スコップがあったって鍬があったって、固い崖はほんのすこし削れたくらいでした。

 ジュンはそのくぼみに腰を下ろして空を見上げ、正面に見える向かいの丘のてっぺんの鉄塔に大声で呼びかけます。「おまえは、いつでも立ちっぱなしだなあ。こっちへこい。腰かけさせてやるぞう。」
 急に目の前の藪から、ジュンと同じくらいの男の子が現れました。「おい、いまおれをよんだかい?」

 男の子が帰ったあと、ジュンは彼に提案されたとおり、危ない洞穴作りをやめて、小屋を作ることにしました。ジュンは材料を集め、作業に掛かります。そこにまた現れた男の子。鉢山十五と名乗る彼とジュンの交流と、すこしずつすこしずつの小屋作りが進んでいきます。何も言わずに静かに後押ししてくれるお父さんやお母さんやお姉ちゃん。そして向かいの丘のてっぺんからいつも見守ってくれているような送電鉄塔。ジュンはいつも見えるこの鉄塔にダイスケと名前を付けているのです。

 鉄塔と同じダイスケというあだ名をジュンに付けられた鉢山「ダイスケ」くんはいったい誰なのか。ジュンの日常に沿ってゆっくりと進む物語が、最後に大きく展開します。

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