佐藤さんちのふしぎ

童話作家・佐藤さとる と作品たち

『小さな国のつづきの話』について(1)

佐藤さんの大冒険

 これはもともと『へんな子』という短編でした。それを長編に展開したこの巻では、じつはたいへんな挑戦が行われています。正子の勤める町の図書館の児童室には、このコロボックル物語の第一巻から第四巻までがちゃんとそろっているんです!
 それはそうでしょう、もちろんそうでなくてはなりません。コロボックルは実在するし、せいたかさん一家も実在する、この物語は本当のおはなしだから。そして、わたしたちはこの本を手に取って読んでいるのですから、当然この本も実在する、同じ町に!
 え、え、え? するとどうなっちゃいます?

 図書館に行って本を手に取りさえすれば、コロボックルの秘密がわかってしまう、ということです。正子がムックリくんに促されてそうしたように、ね。
 コロボックルたちの物語を本にして世に出そうと考えたのは、前の世話役だったモチノヒコ老人だそうです。いつかコロボックルの味方になってくれるかもしれない人々を準備するために、「本当のことを、まるで作り話のように書くんじゃ。」ヒイラギノヒコは相談役たちと話し合い、その計画を実行しました。本つくりを頼まれたせいたかさんの幼ななじみの童話作家(当時はそのたまご)として、佐藤さん自身もこの本のなかに登場していることになります。
 じつはこれまで、コロボックルの「トモダチ」でこの本を読んだ人はいなかった。「トモダチ」になったちいさな人と、本の中の物語を結びつける人はいなかった。けれどこれからはどうなるのでしょう。

 本のことはべつにしても、この巻まででは、ふしぎな目をしたタケルと、ミツバチさんともチャムちゃんとも知り合いのイサオと、このふたりが「みんなのトモダチ」でしたが、こんどは正子も「みんなのトモダチ」になりました。「みんなのトモダチ」はコロボックルの秘密をほとんど知ってしまいます。せいたかさん一家と作者の佐藤さん以外に、秘密を知っている人が増えてきているのです。そして、ひとりべつの町に暮らすタケルはともかく、チャムちゃんとイサオと正子は、このふたつの町で、とても近しい人間関係を作ります。小山とそのまわりだけのようだった物語の舞台が、どこまでもずっと広がっていきそうな気がしますよね。

 

すみれの髪の旅人

 だからこそなのか、ツクシは湖のある山へ、はじめて列車やバスを使う旅行に行って、紫色の髪をした三人の小人に遭遇します。山岳地帯に住むチイサコ族、「すみれの髪の旅人」たちです。小山のコロボックルたちは、彼らと交流を始めました。ここでも物語の舞台は大きく広がっていきます。小山が神奈川県の横須賀だとしたら、ここは芦ノ湖のある箱根でしょうか。ちなみにチイサコというのは北海道にある地名で、小人たちが現れたとの伝承のある場所です。*1

 

ヒイラギノヒコのしめくくり

 ただし、物語はこの巻で完結です。ヒイラギノヒコ世話役は「自分たちの本をこれ以上世に送りだすつもりはない」と言います。「これでもう、知らせておいたほうがいいと思ったことは、みんな知らせたのでね」と。

*1 瀬川拓郎『コロポックルとはだれか』p.19

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