ある四月の日曜日に、国道のバス停「渚橋」に小さなバスが停まり、水兵服を着た男の子が降りてきた。水兵帽には「大日本海洋少年団」の金文字。作者佐藤さとるさんご自身の少年時代を思わせる、その名も加藤馨くんです。
この作品は、時代と場所を昭和十年代の横須賀に取っています。副題に「安針塚の子どもたち」とあるとおり、コロボックル物語とは違って、横須賀駅のある実在の逸見町(現・東逸見町、西逸見町)がそのまま出てくるんですね。
横須賀の谷戸特有の入り組んだ住宅地とその奥の安針塚、塚山公園を舞台に、柿ノ谷(かきのやと)の少年たちと、隣町の西吉倉の少年たちとの向かい合いや友情を描きながら、さあ、物語の前半はむしろ当時の子どもたちの遊びのカタログのようです。
最初は、馨くんが西吉倉のガキ大将・明さんに教えた、海洋団仕込みの斥候ごっこの詳細な説明から始まりますが、そのあとはメンコ、凧揚げ凧作り、トリモチ作り、テグス取り、経木のグライダーの一銭飛行機、とまるで教科書のように丁寧にいろいろの遊び方を教えてくれます。ぼくはメンコにこんなに種類があって複雑なルールもあることをこの本で初めて知りました。
その後、物語の中心は飛行機作りに移るのですが、その途中でも脱線して遊ぶ少年たちに付き合って、鉄ゴマ同士の戦いや、鬼ごっこを複雑な団体戦にしたような「母艦水雷」(東京では海戦ごっこ、艦長ごっこ)の、ルールや戦略まで説明していきます。
そして飛行機作り。翼長50センチ、さらに1メートルの大きな手作りグライダーを競わせたあと、柿の谷のガキ大将・一郎さんは、「人の乗れるでっかい一銭飛行機を作る」と宣言します。一郎さんと明さんのリーダーシップのもと、「本物のグライダー」を作るために少年たち(と少女のカヨちゃん)は力を合わせます。
そして迎えた12月24日、学期の終業式が終わって明日からは楽しい冬休みという午後、少年たちは初飛行の準備を始めました。
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