佐藤さんちのふしぎ

童話作家・佐藤さとる と作品たち

『星からおちた小さな人』について

オキテ

 1965年刊の第三巻『星からおちた小さな人』でも、描かれるのは発展していくコロボックルの社会と、その中で活躍するコロボックルの若者たちです。
 試験飛行の事故に始まった物語は、コロボックルのオキテの中の一条をめぐって動いていきます。それは「汝が不幸にして人にとらえられたるとき、汝はこの世にただひとりとなるべし」という条文です。

 サクランボ技師をモズの襲撃から救ったあと、地面に落ちて気絶したミツバチ坊やは、オチャ公に拾われて「ボクの研究室」の鉛筆削り器の中に閉じ込められてしまいました。意識を取り戻して状況を把握した彼は、オキテをつぶやき、途方に暮れます。「その先は、どうしたらいいんだい。」

 オハナたちの活躍とおチャメさんの協力で、コロボックルたちはミツバチ坊やを発見しましたが、自分たちの力だけでの救助は難しかった。しかし、思いがけないことにおチャメさんが自分でオチャ公に働きかけて、ミツバチくんを小山の近くまで連れてこさせることに成功しました。

 二人のそばに、フエフキ率いるマメイヌ隊が集まります。せいたかさんも遠くでスタンバイしています。けれど最後、ミツバチくんを救い出すためには、どうしてもオチャ公を説得しなければならない。「世話役」のヒイラギノヒコは、今後もミツバチくんをオチャ公に会わせるという決断をします。この若い世話役がもうすでに、人間たちとコロボックルの関係が変わっていくだろう未来まで考えていたから、できた決断でした。

 このとき、コロボックルのおきてが変わりました。コロボックルは誰でも気に入った人間の「トモダチ」になることが許されるようになったのです。これはコロボックルの歴史上たいへんな変革で、だからコロボックルはみんな、この出来事を「ミツバチ事件」として記憶に留めることになりました。

 

男の子たち

 この物語には、コロボックルの若者たちの活躍のほかに、もう一つの中心があります。町の男の子たちの仲間意識です。第二巻『豆つぶほどの小さないぬ』でも、ユビギツネをめぐる重要な立場を担って登場したえくぼの坊や「エク坊」。もう中学生になった彼と、彼をアニキのように慕うガキ大将のオチャ公、そしてそのオチャ公の手伝いができると嬉しくなってしまう年下の男の子たち。ちいさな町の中で年の違う男の子たちがしぜんに親しくなり、ひとつのチームのように助け合って成長していく。こんな人間関係はいまはもう珍しいのでしょうね。

 さきばしって書くと、3年後の短編『人形の好きな男の子』には、中学生になったオチャ公が登場し、「むかしのがき大将」として、年下の男の子たちのながびく喧嘩のなかに入って、「にいさんみたい」にきれいに仲直りをさせています。
 また第四巻の『不思議な目をした男の子』でも、五つか六つくらい年の違うふたりの男の子が仲の良いコンビになって、思い切った行動を起こします。

 

技師たちの系譜

 第二巻もそうでしたが、この第三巻では、前巻で活躍した登場人物たちのその後と、活躍を引き継ぐ若い世代の登場が描かれるという、この物語のかたちがはっきりと表れています。全体としての「コロボックル物語」の、年代記風の魅力はこうして作られていくんですね。

 とくに分かりやすいのは技師たちの系譜。
 第一巻にも第二巻にも登場したツバキノヒコ=キムズカシヤが、この巻にも登場します。
 彼は第一巻では、ヒイラギノヒコやエノキノデブちゃんと一緒に「せいたかさん」への連絡係、というより特命全権大使のひとりというくらいの重大なお役目を担う、けれどもまだ少年のような(「というよりも、少女といったほうがいいくらい」の)若者でした。
 第二巻で彼は、技師として登場し、若い見習い技師サクラノヒコ=サクランボがマメイヌ捕獲のわなを工夫しているのを見守りながら、自分はコロボックル通信社のために初代の印刷機を作っています。コロボックル通信社のクリノヒコに言わせると、ツバキノヒコ技師は「おそらくコロボックルのなかで、いちばん頭がいい」。英語もわかるそうです。
 この第三巻でキムズカシヤは、工場全体を取り仕切る技師長です。サクランボは技師として飛行機械の開発を任されていて、工場の幹部、中間管理職というところでしょうか。そしてそのサクランボの下で助手として働き、この試験飛行のテストパイロットも務めている少年が、この巻の主人公、クルミノヒコ=ミツバチ坊やです。

 年代記というか、歴史が流れていきますよね。

 

三人のリーダーたち

 ちなみに最初に「せいたかさん」への連絡を担つた三人組のうち、キムズカシヤは技師長、そしてヒイラギノヒコは大統領のような「世話役」に、エノキノデブちゃんはコロボックルの学校の初代校長、エノキノヒコ=デブ先生になっています。
「この三人は、まだ青年のように若い。しかし、この三人が中心になって、新しいコロボックル小国をつくりあげてきたのだ。」
 ヒイラギノヒコなんて、ヒイラギの一族のほかの男性コロボックル(みんな正式名はヒイラギノヒコ)と区別する必要がないくらい嘱望されていて、だからあだ名が付かなったくらいの若者ですからね。

コメントを書く

目次(カテゴリー一覧) - 佐藤さんちのふしぎ