佐藤さんちのふしぎ

童話作家・佐藤さとる と作品たち

有川浩版コロボックル物語の紹介

有川浩コロボックル物語

 佐藤さんは1983年に第5巻で物語を完結させたあと、これ以上は続きを書けないと判断しました。けれど後年、コロボックル物語のファンでもある作家の有川浩さんと対談した際に、「ぼくはこの物語の続きを誰でも禁則さえ守れば書けるようにオープンエンドにした。でも誰も書いてくれない。有川さん、書いてみたら?」と話したそうです。*1
 そして生まれたのが、この有川浩コロボックル物語

*1コロボックル物語特設ページ|講談社文庫|講談社BOOK倶楽部

『コロボックル絵物語

 有川浩さんは、長編を書く前に、まずは『コロボックル絵物語』という絵本を出しています(2014年4月刊)。北海道で暮らす女の子がコロボックル物語を知って心にいだいた思いを描きながら、佐藤さんの『だれも知らない小さな国』の物語を、有川さんが語りなおしていきます。かつてこの物語を読んだことのある人なら、村上勉さんのこれも描きなおされた絵といっしょになって、子どもの頃に読んだときの記憶がなつかしくよみがえってくるにちがいありません。

『だれもが知ってる小さな国』

 翌年、新しい長編物語が出版されました(2015年10月刊)。

 はち屋、つまりミツバチを飼ってはちみつを集める養蜂家の家庭の、ヒコという小学校三年の男の子が、今年の夏も季節の花を追って北海道の小学校に転入します。ヒコには毎年のことですが、今年はほかの養蜂家の家庭のヒメという女の子も、同じクラスに転入してきました。
 そしてふたりが出会うのは、小山のコロボックルではなく、山岳地帯に住むすみれの髪の一族でもなくて、ここではまったくべつの物語が始まります。ヒコとヒメというそれぞれの名前はだてじゃなかった!

 物語の前半では、ヒコとヒメの出会い、ふたりと北海道のコロボックルの出会いが語られていきます。
 ヒメがあまりにステキな女の子に描かれていて、ちょっとヒコには不公平じゃないの、って気になってしまう前半です。
 後半、ここでもコロボックルの一族に危機が迫ります。ヒコとヒメは必死に頑張りますが、ふたりだけでは途方に暮れてしまいます。でもじつは、彼らにはたくさんの味方がいました!

 佐藤さんが「これ以上は無理」と判断した理由、はなしを続ければコロボックルを知っている人がどんどん増えてしまう、という難点はどうなったんでしょうか。有川さんはそれを、逆に物語を動かすバネにしてしまいました。だから「誰もが知ってる小さな国」なんですね。とんでもないちからわざです
 そりゃ佐藤さとるさんの作品とはやはり味わいが違います。でも面白いですよ。男の子と女の子の運命的な出会いもありますしね。有川さんに感謝したい。とは言え、この創作はかなりのつなわたりだったんじゃないでしょうか。

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